「〇〇さんって芸能人の〇〇に似てますよね〜!」
これらの誰々に似ているトークは、あまり慣れ親しんでない異性との会話でよく発生する。男性である筆者は、合コンやキャバクラや服屋の店員さんの接客の最中に発生することが多いと感じている。
本当に芸能人の誰かに似ているから言いたくなる事もあれば、あなたとの会話はもうネタ切れ寸前なのでとりあえず言葉の箸休めに使っておきますか〜、んー目が2つあるとこなんか木村拓哉に似てるよね。など、会話の繫ぎのような役割で使われるものだと、そう思っている。
思い返せば僕はこれまで様々な芸能人に似ていると言われてきた。これは完全に自慢だけど錦戸亮さん、flumpoolのボーカルの人、水嶋ヒロさん、仮面ライダーの人…。他にも何人か言われたことがあるがあまり芸能人に詳しくない僕は覚えていない。
ただ、確信を持って言えることがある。似ている芸能人に統一性がないあたり、先程の話でいえば後者なのだということだ。あなたとの話はもうネタ切れなんで次の話題探すまで待ってちょうだいな〜。ってことなのだろう。
だがそれでもカッコイイ芸能人に似ていると言われれば悪い気はしない。女性だって可愛いモデルさんに似ているって言われたら嬉しいですよね?なにより自分が人の目を通してどう見えているのか、気にならない人は少ないんじゃないですかね、わかんないけど。
まだ僕がイケイケウェイウェイしている21歳の頃、遊び人でイケメンの友人に女の子と遊ぶからカラオケ行こうウェイ!と誘われた時のことだ。
友人と合流し、彼女らの到着を待つ。夜空にタバコの煙を吐き出していた僕らの前に、ウォンッ!という音と共に一台の車が停まった。今でも忘れることは出来ないし、今後も忘れることはないだろう。白い15クラウン、ルームミラーにぶら下がった神社で見かけるふさふさみたいなカーアクセサリー。
やべぇ奴らが来た、そう思った。田舎に住んでる人ならなんとなく分かると思うが、セダンにあのふさふさをつけてる奴らはだいたいヤバイ奴らだ。神社だけあって触らぬ神に祟りなし、面倒事に巻き込まれないよう目線を友人に向けると、そこに友人の姿はなかった。
まさか!視線をクラウンに戻すと、颯爽と歩く友人の姿があった。やめろ!そんな人に絡むんじゃない!こっちはなんかエンジンらへんからゴトゴト音がしてるワゴンRだぞ!そんなクラウンに勝てるわけがないじゃないか!!
「お待たせー!」
黄色い声と共に車のドアがボンッと音を立てて閉まる。
「おせーよ!」
…なるほど。どうやらこの黄色い声の持ち主が友人の言う女の子らしい。運転していた彼女が友人の知り合いで、この車のオーナーというわけだ。ヤベェ車に乗ってるわりに、ずいぶんと小柄で活発な女の子だった。助手席に座っていた女の子はすらっと伸びた足が綺麗な、モデルのような女の子だった。あとおっぱいがめちゃくちゃ大きかった。おっぱいは大きいけど今後この子は話に出てきません。
軽い挨拶はそこそこに、店内へと入りカラオケのスタートだ。…にしても小柄な方、めちゃくちゃうるさい。よく喋るしよく笑う。良い意味で面白いやつだ。
場も盛り上がり、終了まで30分を切ったところだった。小柄な方もそろそろ喋るネタが尽きてきたのか、この言葉が口にされる時が来た。
「〇〇君(友人)ってー、松坂桃李に似てるよね!」
でたな、似ている芸能人トーク。確かに友人はイケメンだが松坂桃李にはあまり似ていない。ただこの子は友人の事をイケメンだと遠回しに褒めているのであろう。ほら、お前もニヤニヤすんなさっさと曲入れろボケ。
「そんで、〇〇君(筆者)はー…」
はいはい。もうその手には乗らないぞ。これまで何人に似ている芸能人を挙げられたと思っている。
「うちの会社の課長に似てる!!!」
ハイ????
いまなんつったこの町娘???え、拙者に向かってなんつった????
「やばーい!!めっちゃ似てるんだけど!!え!ちょっと部屋明るくしていい!?」
何だこの展開は、えっ、ちょっと部屋明るくするのやめて、本当にやめて!やだ恥ずかしいから!!
…その後も彼女らが車に乗るまで「課長に似てるわー!」という声が途切れることは無かった。
果たして課長とは何者なのだろうか。芸能人ならグーグルで検索をかければヒットするが、課長さんは出てこない。課長はイケメンなのだろうか。課長は本当に僕に似ているのだろうか?
その後も芸能人の〇〇に似ていると言われることはあったが、未だ僕のことを〇〇会社の課長にそっくりという人には巡り会うことは出来ていない。
課長さん、いつかお会いして聞いてみたいものだ。
「あなた、誰に似てるって言われます?」